この週末を利用して、22日に投開票が行われる台湾総統選挙の視察に行ってきました。
住民による直接選挙で台湾人として初めて、陳水扁氏が総統に選ばれた8年前と、3候補による接戦の結果、陳総統が再選された4年前、私はジャーナリストとしてテレビ番組の取材をしていました。今回は取材ではなく国会議員数名による視察ということもあり、台湾の方々の声をマイクを通じて直接聞くことが出来なかったのですが、民進党と国民党の両選挙対策本部を訪れ、選挙担当者のお話を聞き、両陣営の大集会等に参加をしてきました。国民党の馬英九候補の演説は集会で聞くことができたのですが、残念ながら民進党の謝長廷候補の演説は、日程の関係で聞くことが出来ませんでした。
台湾各メディアの世論調査によれば、先週までは馬候補の支持率が、謝候補に比べ20ポイント高く、「馬候補有利」との報道が圧倒的でしたが、実際に台湾現地を見ると、決してそうではないような空気を感じます。「今日(16日)投票日だったら確実に馬候補が勝つ。でもあと一週間あるから全くわからなくなった」と、台湾人の記者が言いました。
選挙予測の流れが変わった原因は大きく2つあります。
1つは先週、国民党の財務大臣と4人の国会議員が民進党の選挙対策本部を訪れ、このビルが民進党の支援者から無償で提供されていて、公選法違反の疑いがあると言いがかりをつけたことで、本部に集まっていた支援者やボランティアの方々と騒動になり、怪我人が出たことです。この事件が大きく報道されたことで、馬候補は会見を通じ正式に陳謝をしたのですが、謝候補や民進党陣営が主張する「法律を作る立場の者が法を犯すとは許しがたい」との意見が世論に広がりつつあり、国民党への不信が選挙に与える影響は少なくないと、国民党関係者から聞きました。
もう1つは、チベットでおきている僧侶や人民による政府への抗議行動を、軍や当局が鎮圧している事件です。メディアによれば死者や怪我人は毎日増えるものの、その数は当局発表と開きがあります。また、市中心部が封鎖され武装部隊が家宅捜索を行っているとの報道もあります。台湾でも、このニュースは連日トップで報道されていますが、昨日は陳総統が「中国がチベットを弾圧した。次は台湾が弾圧されるのか」と話し、暗に国民党を批判しました。馬候補は対中政策について「『1つの共同市場』であって、最優先されるべきは経済問題」であり、『統一』、『独立』問題を棚上げし、経済政策を最も重視するとの姿勢を表していて、選挙戦が始まった当初は、この政策は多くの台湾人から比較的支持を受けていたのですが、チベット事件が発生したことで『共同市場』への不信感が逆にクローズアップされるという皮肉な状況になってきています。
過去2回の総統選挙の時もそうでしたが、台湾の選挙は選挙戦が残り2、3日になるまでわからないという特性を持っています。自分の1票を4年間のために誰に託すのかを、台湾人民が慎重に選ぶ傾向があることが大きな理由と思われますが、他方、中国の出方を冷静に分析し判断する癖があることも影響しているように思います。
昨日の日曜日は両陣営とも100万人規模のパレードと集会を台湾各地で行いました。今週土曜日には新しい総統が誕生します。台湾の方々がどういう選択をされるのかに注目をしています。